30代男、独身を謳歌する

沖縄県で内科医をしています。生まれた地から遠く離れて生きる日々の記録を綴ります。

輸血後鉄過剰症

最近は資産運用関連の記事ばかり書いていましたので、本職の医業も少し記事にします。

初期研修医指導の中でわかったつもりになっていたことの振り返りです。

 

緊急の外傷消化管などからの出血、消化器癌による慢性的な貧血、血液疾患など輸血を行う状況は様々です。

鹿児島県は輸血の際に記載する書類が神奈川県より多い印象です。

厳密な対応を求めると言う意味ではよいのですが、いざ輸血投与となると手間も多いです。


輸血は大事な治療ですが、長期でのデメリットも理解する必要はあるとも感じています。

ということで、輸血のデメリットの一つ「輸血後鉄過剰症」についてまとめてみました。


<鉄過剰症>
・定義は、通常体内に存在するべき鉄量である約3-5gを超えた鉄を貯蓄している状態、のこと
・余剰鉄は本来網内径細胞に貯蔵されるが、貯蔵能力を超えた鉄は全身の臓器に沈着
・細胞内不安定鉄プール(LIP)がFenton反応などを介して活性酸素を産生し細胞障害する
・TSAT(Fe/TIBC×100)が50%以上で鉄過剰、70-80%を超えると臓器障害のリスク、とされる
心機能障害と肝機能障害が多い
肝生検により肝臓内鉄量を評価して判断する


< 輸血後鉄過剰症 >
■概念
・赤血球輸血製剤には1単位当たり100mgの鉄を含有しているため、輸血により赤血球だけでなく多くの鉄も体内に入る
・長期で大量の輸血を受けることがリスクではあるが、そのような輸血依存患者の50%が骨髄異形成症候群(MDS)、30%が再生不良性貧血(AA)である
・また鉄過剰症はMDSの40%、AAの25%に認める
■診断
・本来は肝生検で組織内の鉄の沈着を評価するが、侵襲性が高い
・かつての肝生検の結果と傾向から、
 血清フェリチン値 ≧500ng/mL + 総赤血球輸血量 20単位を診断目安とする
■検査
・採血検査では、血清鉄(Fe)、血清フェリチンを評価
・肝生検では肝鉄濃度(LIC) を評価し、≧3.2 mg/gLDwで鉄過剰、≧7 mg/gLDwで臓器障害とする
・画像では、MRIでのT2*法、SQUID法がある
■治療
・治療の目的としては、鉄過剰による臓器障害の回避および改善、である
・10-20%で鉄キレート療法に伴い造血の改善を得られることがある
・薬剤としては、デフェラシロクス(DFX)、デフェロキサミン(DFO)、エルトロンボパグ(EPAG)がある
   例) ジャドニュ® 12mg/kg を1日1回 (薬価:90mg 1388円、360mg 5491円)
・開始時期は、フェリチン1000ng/mL以上(もしくは、総赤血球輸血量40単位以上)であり、治療目標は500ng/mLまでの低下
・治療期間は最低1年(十分なフェリチン低下には半年-1年を要するため)

 

【参考文献】

・輸血後鉄過剰症ガイドライン